私の名前は敏子。
彼(のり)からは”Binco(びんこ)”と呼ばれている。生まれて初めて呼ばれる名前だけど、いやな気はしていない。Bはバストをイメージしているらしいけど、私はそれほど大きくない。又、incoは鳥のインコをイメージしているらしい。おしゃべり好きはそのとおりかな?知らない人と自然に会話を交わす事が度々ある。
気が付けば年齢は88歳になっていた。駅の階段が体操教室代わりだが年々しんどくなってきてはいる。だからエレベータに乗りたいのだけれど彼(のり)が無理やり階段にひっぱってくる。
のり「ドトールコーヒーで、お砂糖使いたいんだろ?清瀬駅アルプス登頂はそのご褒美だぞ!」
Binco「糖尿気味の私には殺し文句だわ・・」
のり「この階段を自力で登っている人の最高齢かもな?健康寿命暴走違反で捕まるなよ!」
Binco「スピード低速違反で捕まりそうなのよ!」
こんな感じだ。
だからいつも階段は手すりを磨きながら転ばないよう一歩一歩上り下りしている。
彼と行くカラオケは大好きだ。歌うのは快感。その前に決まって、ドトールコーヒーで一服するのがルーティーンとなっている。何故か家で飲むコーヒーより3倍おいしいわ。
1人住まいの生活は何とかこなしているけど少し記憶力にガタが来ている。
まだコロナ君は遊びに来てくれない。きっとコロナ界では、「Bincoの免疫力に近づくと即死!」の手配書が回ってるのかもしれないと思っている。
若い頃のペンネームは「里佳」。「りか」は文系で理科系ではないのだ。にもかかわらず、理系の、のりは時々πとかsin・cosの毒矢を、吹矢で打ち込んでくる。分数の引き算もできない私には毒が効いてこない。
「私の好きな数字は2が割り込んでこない奇数が好きよ」
って言うと、彼は、もっと個性の強い「素数」とやらが好きらしい。素数って誰にも邪魔されない数らしいけど、「Binco」の脳みそをかすった事が無い。
私の日常は朝食後、バスに乗る事から始まる。隣り合わせた見知らぬ人とすぐ会話のキャッチボールを始めてしまう。インコも顔負けの軽快さ。Bincoという名の所以でもあるらしい。
少し込み合っている時、席を譲られると内心イラっとする事がある。若ぶっているプライドに、いささかひび割れが走ってしまうのよね。とは言っても座れるとほっとする。
清瀬駅の階段通路から改札口をパスモで通過し、所沢駅の構内にあるドトール内部窓際席が、私たちのコーヒー指定席。おかげでドトールのスタッフとは顔なじみになるぐらいだ。あれこれ一連の行動は、のりが心得ている。私1人では無理。私たちの会話が途切れる事は、めったに無い。
例えば、のりの持っているドトールカードにチャージする金額が多すぎると思った時に、
「生きてる間に使いきれないじゃない?」と言えば
「しまった!おまえ、明日往くかもしれないもんな?」
と彼の残酷な一言が返ってくる。
その内、コーヒーがおなかの水溜りに注ぎ込まれてコーヒー色に染まると、そろそろカラオケに向かう時ね。
今日も元気はつらつで歌う気満々。のりが言うには不調を招き寄せるのは、自業自得。幸せの青い鳥は、脳神経の栄養をたっぷり吸い込んだミネラル食品が好物らしい。自分にしか作れない青い鳥のエサを自分の畑で栽培する意欲をサポートするのが、脱力した筋肉トレーニングらしい。
脱力は健康の必須アイテムらしい。その脱力アイテムを日常に取り込めば、健康生活はどんどんレベルアップしてくるんだって。発声はその脱力を表現する絶好の環境らしい。そういう事から、のりは私をカラオケに度々連れ出してくれる。
今の目標はDAMのAi採点90点以上が常時クリアできるようカラオケを楽しんでいる。
第1話のしめとしてボイトレの初めの一歩となるこんな会話を紹介するわ。
のり「食べ物を飲み込むとき、丸のみしないよね?」
Binco 「薬以外は、歯でよくかんでのみ込むわ」
のり「声を出す時、肺の息を直にのど(声帯)に当てに行ったりしてないよね?」
Binco 「そんなこと考えた事ないわ。息はのどから出て行くにきまってるでしょ」
のり「ダメダメ。息もおなかで一旦咀嚼しないと声が未完成のまま出てしまうだろ」
こんな具合に、のりは、腹式呼吸の重要さを なんとなくおしえてくれる。Ai採点で90点以上を取るためにのりのアドバイスを聞いてみよう。